78
78
「…………」
セインの視界は闇に覆われていた。右左や上下の感覚も曖昧な空間だ。
(この中から奴を探し出すのは一苦労だな)
時間は残されていない。一刻も早く『死霊使い』を見つけ出さなければ。
しかし、セインの焦りは杞憂に終わった。
前方に一人の少女が薄明かりのもと、自分の体を抱きしめるようにぽつんと一人寂しく座っているのだ。
セインはゆっくりと、警戒しながら少女に歩み寄る。
少女の眼はただただ、何も無い空間を虚ろに見つめるだけで、その口からは延々と呪詛の呟きが紡がれている。
「……聞こえるか、『死霊使い』?」
大きくはないが、よく通る声で語り掛けるセイン。
セインの言葉に反応して少女はその頭を僅かに上げた。
しかし、
「…………」
何も言わずに、再び彼女は俯いてしまった。
「逃げないのか?」
セインは腰に携帯している愛用の黒い剣を静かに鞘から抜く。
それでも少女は何の反応も示さない。
(……ちっ!相当重傷のようだな)
『死霊使い』の肉体、もしくは精神を破壊することでこの暴走を止められるのであればセインは遠慮無く少女を殺すのだが、
(……一体何が起こるのか見当もつかんからな)
肉体を傷付けたり、精神を破壊することで逆に最悪の事態を引き起こしかねない。
「……さないの?」
少女の口から初めて意思を持った言葉が発せられた。
「どうして、あたしを、殺さないの?あたしを殺しに来たんでしょ?」
座ったままセインを見つめる少女。
「……殺したいのはやまやまなんだが、そういう訳にもいかなくなった」
セインは淡々と少女に答えた。
「だからあたしを説得にきたの?随分勝手ね」
少女の口調は羅刹やアシュタル、街の人々が『月夜』と呼ぶ少女の口調からはかけ離れたものだった。その言葉の中には優しさや思いやりといった感情はなく、憎悪や妬みなどの負の感情しか感じ取れなかった。
「そうだな。確かに勝手だな」
セインは感じたままにそう答えた。彼は少女を労るような言葉は一切掛けなかった。
その言葉に対し少女は、立ち上がりながら微笑んだ。しかし、やはりそれは『月夜』の見る者を和ませる笑みではなく、見る者の心を震え上がらせる、恐ろしい微笑みだった。
しかし、セインの表情は変わらず無表情のままだ。
「あたしはこのままでいたいの。これ以上関わらないで」
少女は素っ気無くそう呟き、歩き出す。