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一週間後
「……行っちゃうんですか」
月夜は城の正門前でアシュタルと羅刹と共にセイン達を見送ろうとしていた。
あれからセインは奇跡的な回復をみせ、精神はもとより、体力も全快していた。
彼は月夜を再び暗殺しようか、あるいは断念するかを相当悩んでいたようだ。
それはそうだろう。死んでいった彼の部下の事を思うと簡単には月夜を許す訳にはいかないだろうし、死んでいった者達に対し責任が取れない。
しかし、月夜の心の一端を垣間見てしまったセインは月夜を殺したくもなかったようだ。
その葛藤は相当なものだろうが、それがどれほどのものかは月夜にはわからない。
「俺達は街の者からすれば侵略者だ。それがお前と一緒にいては変に思われるだろう」
あの戦いのあと、セイン達は何とか街にまで戻ってきていた。
街は住民の必死の抵抗と、セインの部下達が、『軍が住人を殺戮するようであれば、陣形の中から撹乱しろ』という命令を忠実に実行した為、全滅を免れていた。
もっとも、軍が犠牲の多くなる戦法を取っていた為、考えていたよりも損失が生じ、戦略の見直しを迫られ撤退した、というのが最大の要因なのだが。
セイン達のことは月夜が街の人々にうまくごまかしておいた。セインの部下達に命を救われた者もいる街の人々は月夜の話を完全に信じきっていた。
「……これからどうするんです?」
月夜の問い掛けに、
「軍にはもういられんからな……とりあえずは他の大陸に行ってみようかと思う……残った部下達には悪いが、彼等を連れて行く訳にはいかない」
部下達はセインについて来たがったが、他の大陸に行くのに部下を全員連れて行くのは人数が多すぎる。彼らにはこの周辺の村を手助けして欲しい、とセインは頼んでおいた。
他の大陸はどうなっているのだろうか。ひょっとしたら、そこにはこの大陸の人々を救う術があるかもしれない。 理想はあくまで理想。
しかし、追い求めなければ手に入らないものでもある。
三年前のように平和に暮らしていける世界を。
セイン達はそれを追い求める決心をしていた。
羅刹が一歩進み出る。
「もう会えんかもしれんが……達者でな」
無言で頷く三人。
「俺は、貴様等は大嫌いだ。二度と顔も見たくない」
アシュタルはぶっきらぼうにそう言った。
「……が、月夜を救ってもらったことに対してだけは礼を言っておく」
そんなアシュタルの態度に苦笑する月夜。
「『死霊使い』」
セインがそう言ったの聞いて月夜はセインを見上げる。
「お前には、信頼できる人物がいる。決して一人ではない。そのことを忘れるな」
ゆっくりと頷く月夜。
「じゃあ、行こうか」
ユートがセインとサンに呼びかける。
「ああ。そうしよう」
三人は飛翔呪法を発動させ、宙に浮かぶ。
「……月夜、頑張れよ……」
セインがそう言うと次の瞬間には彼等の姿は太陽の輝く空に飛んで行った。
「……セイン、ずいぶん悩んでいたようだね」
飛翔しながらユートはセインに語り掛ける。
「……まあな……」
セインは月夜を殺すべきか、殺さないべきかをこの一週間ずっと悩んでいた。
なにより彼女は部下の敵、村の人々を飢饉に追い込んだ元凶だ。
その感情に反して、月夜の心を見てしまったセインは彼女を殺したくもない、とも思っていたのだ。
揺れ動くセインの心を固めたものは月夜の言葉だった。
彼女はこの一週間ずっとセインを看病していたのだ。アシュタルと羅刹の反対を強引に押し切りセインを看病していたある日、
「お前は何故俺の看病をする?お前にとって俺はこの街の住人を殺した憎むべき敵であるはずだ。そして、俺にとってもお前は殺す対象のはず……お前は俺が憎くはないのか?俺に殺されるのでは、とは思わんのか?」
セインは率直に月夜に問いただした。
月夜は、しばらく無言だったあとで、
「……まず、あたしはあなたを殺したいとは思わない……確かに、あなた達がきて戦闘になったけれど、その原因のいくらかはあたしにあるんだし……それに街の人が軍に殺戮されなかったのはあなたの部下達が動いてくれたおかげだもの」
月夜は小声で話し始めた。
「それと……あなたにあたしが殺される、っていうのは……全く考えていない、と言えば嘘になる……でも……」
「……でも?」
セインは俯く月夜に声を掛ける。
「お父さんやお母さんが生きていれば……多分こうすると思う……お父さんもお母さんも、あなたを看病したことを誉めるかもしれないけれど、叱ったりはしないと思う……」
この一言がどうセインの心を動かしたのかはセイン自身もよくわかってはいない。
ただ……そう、純粋に月夜を殺したくはない、とはっきり自覚したことだけは確かだ。
死んでいった部下達には……詫びの言い様がないが……それが自分の正直な気持ちだ。
争いのない平和な世界を作り上げる事で部下達には詫びよう……地獄とやらにいくのはそれからでも遅くはあるまい。
「彼女達はこれから大丈夫なのかしら?軍がまた動きだすんじゃない?」
サンの心配そうな声に、
「……今回の戦闘で軍側にがかなりの損害がでたからな。人口調節とやらもする必要はないだろう。むしろ、街を保護することで税を取り立てようとするかもな」
それに、とセインは続ける。
「それにあれほど絆が強固な街はそうはない。心配は無用だろう」
三人はその顔にうっすらと笑みをたたえて飛び続けた。
三人の姿を見送り、
「これからが大変だな」
羅刹はぽつりと呟く。
街は周辺の村の状態を聞いて、援助隊を組織し派遣した。生活は苦しくなるし、それで全ての人々が助かる訳でもない。
それでも。
月夜は強く決意していた。
偽善であってもいい。
亡き父、母のように、自分に出来る最大限の努力をしようと。
三人は城の正門に入っていく。
そう、自分は一人ではない、
アシュタルが。
羅刹が。
そして街の人々がいる。
そして、彼女のこの世界を変えていこうとする人もいる。
「さ、これから大変だけど、頑張ろうっ!」
月夜の心からの笑顔を見て、羅刹とアシュタルは満足そうに微笑んだ。
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