神楽
神楽
セインは月夜の瞳を見据えながらそう言った。
「この程度の痛みで苦しいと思うようでは、貴様の為に死んでいった住人が浮ばれんな」
セインの言葉と共に月夜は再び立ち上がる。
「無駄な事をまだする気か?今の貴様では俺には絶対に勝てん」
小さな拳をセインの胴に突くが、セインは全く容赦なく月夜を蹴り上げた。
「貴様の力はもとより、意志の力も俺より劣っている……そんなことで勝てる訳があるまい……なにより背負っているものが違う」
よく通る声で月夜に語り掛けるセイン。
「あたしは……諦めない……諦めたら終わりだ……」
月夜は自分自身に語り掛けるように呟く。
「ほう、ならば貴様の意志の力、試させてもらおうか」
セインはそう言って静かに鞘から剣を抜き払った。
「…………!」
月夜の喉がごくりと鳴る。
「どのみち、オーバーロードが起こるのであれば、貴様を殺して威力を削いだ方がまだましだからな」
セインは淡々と呟く。
「どうした?貴様は諦めないのではないのか?それとも死の危険を感じただけで怯むような甘っちょろい決意だったのか?」
月夜は足元に落ちていたナイフに視線を移す。セインが落としたナイフだ。なぜ、こんなところにナイフが落ちているかまでは今の月夜に考える余裕はなかった。
足元に落ちていたナイフを手に取り、セインに突っ込む月夜。
そのナイフはセインの胴を捕らえた。セインの黒い鎧から赤い血が流れる。
見上げる月夜の胴をセインは素早く薙いだ。しかし、その刃は返されており、月夜に致命傷を与えることはなかった。
後方に吹っ飛んだ月夜は頭だけをなんとか上げて、セインを凝視する。
「……軟弱なりに多少はましになったようだな」
セインは片膝をつき、腹を押さえながら小声で呟く。
月夜はその呟きに対し、何と反応していいかわからなかった。
「……よく覚えておけ。人間は弱い。一人では決して生きていくことは出来ない」
月夜はどうしてセインがそう言うのかわからなかった。
「……同時に、一人で生きていくことが出来ないが為に、人はお互いに支えあっている……それが人間の強さだ」
セインは尚も月夜に語り掛ける。
「……確かに、貴様が存在したせいで奪われた命は多いだろう。しかし、貴様がいたから救われた人間も決して少なくはないはず……そして彼等にとってはそれが善意であり、偽善などとは決して思わん」
力強く断言するセイン。
「……お前が生きることで、より多くの命を救えるかもしれない。お前の力を必要とする者はたくさんいる」
セインは初めて月夜に優しい言葉を掛け、ほんの少しではあるが微笑みかけた。
「行け。お前を待っている者がいる。安心させてやれ」
短い、それだけの言葉ではあったが、月夜には充分なのものだった。
月夜は心の殻を破り、駆け出していった。